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名月荘 縹

山形・かみのやま温泉の名旅館 名月荘の客室「縹」のリニューアルプロジェクト。
蔵王連峰を望むこの場所が持つ本来の豊かさと向き合い、滞在の体験そのものの密度を高めることを目指した。

既存のダイニングと畳敷きの寝室は、壁と襖で仕切られていた。近年のベッド式寝室の需要の高まりから、ベッドルームを作ること、またこれがダイニングと接続した一体感のある空間とすることが求められた。しかし同時に、ダイニングへの朝食の配膳のために、ベッドルームのプライバシーを確保するという相反する機能を叶えなくてはならなかった。そこで、二間の間口のベッドルームの半分を格子状の引き戸とし、もう半分を半透明フィルムを貼ったガラスのFIX壁とすることで応答した。

ダイニングとベッドルームにまたがる天井には、僅かな勾配を与えた。ベッドルームに向かって低くなり、景色を望む開口部に向かって高くなるこの天井が、睡眠時には巣穴に入り込むような身体感覚を与え、夕朝食時には山々と室内との繋がりを増幅する。

2つの部屋を隔てる格子材には、近隣の山で採れた杉材(西山杉)を使用した。和紙貼りの天井や壁との調和を図り、ホワイトステインの拭き取り仕上げとした。
外部の光を滲ませる太鼓貼りの障子戸は、ディフューザーのような役割を果たし、手漉き和紙の表面の凹凸や個体差を浮き上がらせる。
ベッドのヘッドボード背面の壁にはスサ入りの土壁を採用した。杉、和紙、スサを繊維と見立て、空間全体が繊維の絡まり合いによって構成される素材選定である。

建築をことさらに主張させるのではなく、風景と素材、そして光が共鳴する場であること。分節されながらも繋がる空間のなかで、訪れる人が心身を解き放ち、この場所で流れる時間に深く身を委ねられるような場を設えた。

名月荘

deta

2021年

山形県,上山市

credit

施工 : 有限会社タムラ建設

写真 : 渡邉吉太

 

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